DIGITAL CONTENTS EXPO 2009『HAYABUSAのメイキング-いかにして4K映像を作ったか-』 2009/10/24(土)16:15〜17:00 日本科学未来館7F イノベーションホール 話者:上坂浩光(『HAYABUSA - BACK TO THE EARTH -』監督) ※手元が真っ暗な状態でとったメモを基にしているため、再現性はそうとうに低いです。  またCG制作に関する部分は内容を誤認・誤記しているかも。 『HAYABUSA』を既にご覧になった方はどれくらいいらっしゃるでしょうか? (会場の約半数が挙手したのを受け)では内容は半々でお話しします。 ※今回の講演の機会について科学未来館とDIGITAL CONTENT EXPO への謝辞 ※2009/10/24 23:00 頃の星図を出し、「はやぶさ」の概要説明 夜空を見ればイトカワがあるのです。20等かそれ以上に暗いので肉眼では見えませんが。 イトカワはこの辺り(ふたご座のμ星:「カストルの左くるぶし」辺り)。 「はやぶさ」はこの辺り(同δ星:「ポルックスのみぞおち」辺り)に位置します。 地球との距離は約1.3天文単位。 今、この時間も「はやぶさ」は1人で飛んでいるという事実を感じてほしい。 『HAYABUSA』の前に『祈り』という作品に関わりました。 制作は別のプロダクションですが、CGはライブ(有限会社ライブ:上坂氏のCG制作会社)です。 『祈り』はプラネタリウムなどに配布されました。 これが大阪市立科学館の飯山さんの目に止まり、 「『はやぶさ』でプラネタリウム用の番組を作りたい」と打診されます。 私たちも「『祈り』のデータで番組を作りたいね」と話していたところだったので 喜んでお受けしました。これが去年の2月頃のことです。 【『HAYABUSA』のコンセプト:「探査は人類の根源的な欲求に根ざしている」】 「はやぶさ」は人類の総意として旅立つ、というコンセプトです。 『プロジェクトX』風にはしたくありませんでした。 ラフ段階では川口教授、吉川准教授が実写で登場するというアイデアもありましたが そうしてしまうと「頭の良い人たちが頑張っている『自分とは関係ない世界』の話」 と観客が受け取ってしまう恐れがありました。 そうではない、自分たちが今存在しているここも地球という「宇宙の一部」なのだと伝えたかった。 そして「命とは何か?」というところまで描ければと。 「はやぶさ」はただの機械です。それなのに私自身も含めてたくさんの方が応援している。 なぜそこまで感情移入できるのか、機械に「命」を感じる不思議さを覚えます。 「はやぶさ」も生き物なのでは?と。 【スケッチング】 まず最初にイメージスケッチを行いました。 スケッチ1)「宇宙への旅立ち」:M-V大気圏突破シーン   これは最初の──まだ見ていない方もいらっしゃいますが、ネタバレしないと   話ができませんので(会場・笑)──シーンです。   地球の大きさを印象づけるために地球を画面の上におき、「地球から落ちる」という図にしました。   本作では様々なことを「説明」ではなく「暗喩」で表現したかった。 スケッチ2)「スイングバイ」:スイングバイシーン   『祈り』でも同じ場面を描きましたが解りづらかった。   そこで軌道と通過タイミングを示すゲートを表示しようと。   これは初期から浮かんでいた構想でした。 スケッチ3)「イトカワの大きさ」:イトカワVSタンカーのシーン   ビルとか家とか、身近なもので喩えるという案もあったのですが。 スケッチ4)「イトカワの内部」:斬鉄剣シーン(c)吉川先生   大きさの割に軽い、内部に隙間があるのだろう、という点をどう描こうか?   割っちゃえばいいんだ! スケッチ5)「?」:トレーラー 01:55〜01:58   科学的な映像からうってかわってイメージ映像という展開が成功したか?はこの後の上映で実際に見て下さい。 【Animatics】 全天周4K映像の解像度は1辺が4096ピクセルあります。 一般的なDVD解像度に比べるとファイルのデータ量は40倍近くです。 レンダリング時間も47倍。 そこで、まずは 512×512 で仕上げてしまい、そこから高解像度に置き換えるという 制作手法を用いました。 ※アニマティクス上映。上坂氏による仮ナレーション付き。  ttp://www.pronews.jp/special/0905131102.html の2番目の動画参照。 このアニマティクスで仕上げて(=演出、動きだけは完成版、というものを作り) 川口先生、吉川先生に見て頂きました。 この時にラッキーなことがありまして──ネタバレですが(会場・笑)── 「はやぶさ」はオーストラリアのウーメラ砂漠にカプセルを投下した後 (※描写はレポ主により削除されました※)ます。 このことについて制作初期にJAXAから 「オーストラリアとの交渉上不利になる恐れがあるから描かないでくれ」 と言われていたんですが、勝手に「描いたバージョン」のアニマティクスを作って (両先生に)見せちゃいました。(会場・笑) おそるおそる「……どうでしょう?」と聞いたらOKだと。 川口「いいじゃない、ホントなんだから」 アニマティクスのワークフローについて。  3ds Max:3Dモデリング      ↓  After Effect:コンポジット(合成)      ↓  Adobe premiere:ムービー という手順です。『HAYABUSA』は premiere で作られています! (会場・笑。どうやらプロ現場では物足りないソフトらしい) 4K 映像は premiere でできます(笑)。 3dモデルを置き換えれば動画も自動的に変わる、こうすると仕上がりを確認しながら作れます。 演出や動きは最初に完成させてしまい、3Dモデルを最後にすることで処理負荷が下がる。 4K映像は重いため、1つのサーバにファイルを置くのではなく 1シーンごとに1台のマシンを与えて各マシンにリモートログインするという手法です。 IBM のクラウドコンピューティングの力もお借りしました。 ※科学技術館、葛飾区郷土と天文の博物館の写真を提示 最初は通常の平面画像として作りましたのでドーム用の歪曲は 科学技術館、葛飾区郷土と天文の博物館のドームをお借りして試写を行いました。 ※科学未来館の写真を提示 そして3月の完成試写。科学未来館さん、ありがとうございます。 ※完成記者発表の写真を提示 当日、川口先生がおいでになって完成を祝ってくれました。 吉川先生は新幹線で来られたにも関わらず、イトカワの模型を2つ運んで説明されました。 ttp://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/03/27/1685.html 【全天周映像の特性】 ドーム上映には2つの効果があると思っています。個人的に使っている言葉なのですが、 「重圧効果」   天頂部に投影したオブジェクトは重圧感を与える。   本作中では「イトカワが上から押し迫って来る」シーンが該当。   また「はやぶさ」打ち上げシーン(地球が上からのしかかる)もそう。   このシーンはPCのスケール演算が限界までいきました。 「落下効果」   オブジェクトを上から下に降ろすと見ている者は体が持ち上がるよう感じる   本作中でも何度か。 【Music & Narration】 本作は「はやぶさ」と観客をできるだけ結びつけたかった。 (見ている者を「自分と『はやぶさ』」という2者関係」に置きたかった、の意) 観客が没入できるように、登場人物はできるだけ少なくしたい。 だからナレーションは1人だけ。 周囲には「40分もの間たった1人のナレーションで進めるなんて無理じゃないか」 とも言われましたが、「緒形拳さんのナレーションで」と伝えたら皆「そういうことか」と 納得してくれました。 緒形さんにアポをとって本作について話したのが去年の09月。 ところが翌10月に緒形さんは亡くなってしまいました。 さんざん悩んで、最終的にお願いしたのが篠田三郎さん。 篠田さんは本当に真面目な方で、私たちのコンセプトを汲み取ってくれました。 ※ 「HAYABUSA making」:ライブ社事務所でナレーションテストする篠田氏。  台詞は冒頭部のもの。  完成版より直線的でキビキビした声と口調。 最初、篠田さんはウルトラマン調というか「カッコ良く」系と思ったようです。 そこで「優しくやって下さい」とお願いした結果が、次にお聞かせするものです。 ※ナレーション本番録音の写真と完成版音声  台詞は「さあ、帰ろう……懐かしい地球に」が出て来るあのシーンのもの。 篠田さんの表情に注目して下さい。 「大事な人が亡くなったと思ってやって下さい」とお願いしたところ こんな泣きそうな顔で演技して下さいました。 私が慣れない作詞をした曲を chie さんに歌って頂きました。 ※「HAYABUSA making」:録音風景と「宙よ」音声 ここに写っているのが作曲の酒井さん。 数ヶ月かけて何度も何度も注文してしまい、酒井さんには「何回実家に帰ろうかと……」と 言われてしまいました(苦笑)。 この曲は iTuns Store で購入できます。ありがたいことに一時期は12位まで。 それでは、完成版のトレーラーをどうぞ。 ※トレーラー 全天周で全編ずっと動き続けの3D4Kは本作が日本初じゃないかと思っています。 本作を見てくださった人数は08/31時点で 37,420。 上映館が少ないのにこれだけの人が見てくれた。 現在上映しているのは   ・大阪市立科学館   ・日立シビックセンター   ・府中市郷土の森博物館 これから上映が決定しているのは   ・相模原市立博物館   ・千葉市立科学館   ・サイエンスドーム八王子   ・川口市立科学館   ・豊田産業文化センター   ・平塚市博物館(再上映。来年春から) また、これは『HAYABUSA』ではないのですが関連するものをお見せします。 ※「はやぶさ2」ミッション構想動画 「予算が出ていないので内容は『できたらいいな』です、と言って下さい」と 吉川先生に言われました(笑)。 皆さん、応援よろしくお願いします。 【「良いムービーを作るために一番必要なものは何だと思う?」】 自分は「思いがあるかどうか」だと思っています。 CGクリエイターは日が当たりません。 たまたま私はこうして皆さんの前でお話ししていますが、(本作の)地球を作った人、 イトカワを作った人などは顔が出ません。 彼らのクリエイティビティがもっと認められる社会になってほしい。 これだけのものを作れるのだから。 本作には「偶然に写っているもの」は1つもありません。 全て誰かが手で──機械じゃありません、手で──作ったものです。 その観点で本作を見ると、また違った見方ができると思います。 【質疑応答】※門外漢のメモからの書き起こしなので記載内容がとんでもない間違いを含んでいる恐れあり。 Q:制作の最大オペ人数は? A:私を含めて延べ15人。 Q:「モデリング担当、コンポジット担当……」という作業による分担か、   「シーン1担当、シーン2担当……」というシーンによる分担か? A:質をそろえるため、作業による分担。ただし複雑なカットは最初から最後までを1人に割り振った。 Q:シーンごとにマシンが独立していてその制作方法は大変だったのでは? A:アニマティクスで「3Dモデル以外は完成」という状態まで作っているので大丈夫。 Q:(手元メモからの質問再構築できず。ごめん) A:1フレームのレンダリングに1時間かかってしまうので(会場・笑)   「とにかく、レンダリングは1回で!」という方針だった。 オマケ: 私は天文写真も趣味ですが、『HAYABUSA』の背景に出る星は自分で撮ったのをはめこんでます。 背景の M31、あれは私が撮ったものです。(会場・笑)