宇宙科学技術連合講演会: 宇宙を楽しむ市民シンポジウム 〜小惑星探査機「はやぶさ」の物語〜 2009/09/13(日)10:00〜12:00 於:京都市青少年科学センター (レポ文中敬称略) 【宇科連疲れの栄養補給に(ry】 開会前、ステージ上のテーブル前にて進行をつめている登壇者3名。 「会津大学 寺薗淳也先生」の卓の上にあるのはMac Book、サントリービタミンウォーター。 そして皆の期待を裏切らない、未開封のアレ。 開会。 寺薗(以下「テ」):  ・京都に4日いると京都弁がうつってしまいます   (と関西イントネーション混じり。以下テラキンさんの発言全て同様。)  ・いつも宇宙科学連合の時は一般向け講演会をしています。今回は4回目。  ・今回の宇科連に参加した科学者は800人!キてますね〜。   発表も550件です!   聞くだけでも疲れ果て、その後の飲み会で更に疲れ果てます。 【小惑星というものについて】 吉川(以下「吉」):  まずこの図をお見せします。(「はやぶさ」ミッションの初期イメージ図)  この頃はまだターゲットの小惑星がどのような姿かわかっていませんでした。 テ:つまりこの絵の小惑星はテキトーに描かれてるんですね。クレーターとか。 吉:この図を見ても誰も何も不思議に思わなかった。クレーターがあると思っていたから。  ところが実際に行ったらクレーターが全然ないことがわかったわけです。  ターゲットの小惑星「イトカワ」は実に小さく、500m程度。  (東京タワーとの比較図を出して)  東京タワーが約300mですから比べるとこうなるのですが、せっかく京都なので……  (Google Map を利用した「もし京都駅にイトカワが落ちたら」図。会場爆笑)  京都駅がほぼすっぽり入るくらいの大きさです。 テ:もし丸ごと持って来たら西本願寺に展示できるんですね?(会場・笑)   ここから竹田駅(注:会場との距離は約 1 km)の間に2つ置けるくらいだ。 吉:(イトカワのモデルを2つ出して)  こちらがイトカワに到着して観測を始めた初期成果で作られたモデル。  着陸の検討を行う必要から、早期に暫定モデルを作る必要がありました。  さらに、現時点の「はやぶさ」の成果を全て注ぎ込んだのがこのモデルです。  こちら(イトカワ到着後初期モデル)は職人さんの手作り、こちら(全成果反映モデル)は機械で作製しています。  そのため「最も科学的に正しい」モデルのほうが作りが粗く見えます(苦笑)。 テ:(全成果反映モデルを手に)あ、でもこれ、等高線が刻まれて…… 吉:それ、機械で切り出すときの跡ですよ。 吉川:  ※小惑星とはどのような天体か、の説明。  - 地球(ハッブル)から観測したセレス、パラス、ヴェスタの画像を出し   もっとも大きい小惑星でもかろうじて表面の様子が見えるか見えないかであることを説明  - 過去の探査機による小惑星画像(マチルダ、イダ、ガスプラ、エロス)   「これらの画像から小惑星にはクレーターがあるものだと    皆、思うようになりました」   イダは副衛星を持っているというユニークな点がある  テ「それ(副衛星)も丸くないんですか?」  吉「いびつですね。衝突破片が副衛星になったのではないかという説もあります。」  吉「これはシュティンス。特徴的な形をしていて『宇宙のダイヤモンド』と報道されました」  テ「『逆さおにぎり』に見え……食い気はり過ぎですね」    ※小惑星の分布と数の説明。太陽系軌道図を出し、来場者に太陽系惑星を挙げてもらう。  来場者(小学生男子)「水金地火木土天海」(会場拍手)  テ「ちゃんと『冥』がないのが今の子ですねえ」(会場・笑)  (小惑星40万個をプロットした図を出す。メインベルトはプロットで真っ黒。)  吉「真っ黒ですが、それぞれは非常に小さいです。   例えば地球から木星へまっすぐ行ってメインベルトを突っ切ったとしても小惑星にぶつかることはありません。   小惑星に遭遇するにはそのために軌道をとる必要があります」  ※太陽系外縁天体とセドナの説明  テ「こいつらが冥王星を『惑星』から引きずりおろしたんですね」(会場・笑) 山川(以下「山」):  寺薗さんはてっきり会津弁で話すかと思ったら予想に反して京都弁(笑)。    テ「んなことねえっぺ」(会津弁で)  私は京都に移って3年経っても京都弁になりません。京都弁デビューは待って下さいね。(会場・笑)  ※「はやぶさ」ミッション概要説明。    元は「MUSES-C」と呼ばれていたが打上成功に伴い愛称が付く、という話から……  そういえばどなたが『はやぶさ』って名付けたんでしたっけ?    テ「的川先生……あ、そういう偉い方がいらっしゃいまして。      的川先生でしたっけ?      『着地してすぐ飛び立つ』のをハヤブサに例えたという話ですが、昔、内之浦に行くのに使った      寝台特急『はやぶさ』が由来じゃねーかという説も……」  「MUSES-C」は1990年〜1993年頃に計画がスタートしました。  ここにいる3名は1993年から関わっている人間です。  で、ちょっと宣伝なんですが。  先日打ち上げが成功した H-II B もそうですが、ロケットというと種子島が有名ですよね。  でも科学用のロケットは内之浦から上げています。  (鹿児島県南部の地図を出して)  ここが内之浦。西側の半島が薩摩半島ですが……ここで問題。  日本で最初に打ち上げられた人工衛星の名前をご存知の方?  (前方3列あたりは 1/3 程度が挙手。上品な女性が指名され「おおすみ」と回答)    テ「皆さん、詳しい方が多いなあ」  はい、大隅半島にちなみ『おおすみ』と名付けられました。  衛星の名前は偉い方の一声で決まることもありますし公募されることもあります。  ※「はやぶさ」ミッション構想動画を上映しながらミッションプラン説明。   ミネルバについても説明される(投下失敗の件はここでは言及されず)  ※「はやぶさ」諸元説明  太陽電池の発電量は最大で2.6 kWです。    テ「エアコン2台分の電気でも飛ぶんですね」  ※動画上映中の解説に合わせてテラキンさん踊りまくる。    山川先生の「ここでサンプルをとる腕を伸ばして……」という声に合わせて腕を伸ばしたり。  (動画でのミッションプラン説明後、総合試験の写真を提示)  地上では念入りに様々な試験を行いました。  打ち上げる時のロケットの振動がとても大きいので探査機を揺さぶったり。  極端なことを言えば落としても壊れないかどうか試したりもしました。    テ「象が踏んでも壊れない、って位ですね」  試験だけでも20〜30人が常時張り付いて2年です。    テ「青春を台無しに……いやいや、アツい青春を送った人がたくさんいたというわけですね。      あの頃、僕たちも若かったですよね……」(遠い目)  若者でした……。(遠い目)  ※ミネルバの顛末について。    もし表層に到達できれば表面を跳ね回るようにできていた由を解説  大学院生がパソコンのカメラを引きちぎるような真似をして作ったロボットでした。  それでもちゃんと宇宙で2年間生き延びて、写真も撮影できたんです。  さて『はやぶさ』は観測機器もたくさん積んでいました。  これについては寺薗さん、お願いします。  ※テラキンさん、今までの1.5倍近い声量で水を得た魚の如く機器解説。    AMICAは全体像を、LIDARは高度を、NIRSとXRSは成分を調べるんだよーと。  ※「はやぶさ」の往路軌道について    なぜ直接行かずに地球にもう一度近づくか?ですが、この最初の1年はエネルギーを貯めていました。  そのエネルギーを地球に一気に加速してもらったんです」    テ「地球にお尻を蹴っ飛ばしてもらうという感じですね」  せっかく地球に近づいたので、月の写真と地球の写真も『はやぶさ』に撮ってもらいました。  ここ、雲が多くて──    吉「梅雨に入ってしまったものですから」  ──見えませんが日本です。一応、日本ということになっています!(会場・笑) 【前半終了の質疑応答】 Q: 着陸もカメラ画像による誘導だったのか? A:(テ)距離によります。   50kmを切った辺りからレーザー高度計、本当に近づいたら障害物センサというように   いろんな装置を使って状況に応じて誘導を行っていました。    Q:ずっと「はやぶさ」は白黒画像しか送ってこなかったと思っていたが地球の画像がカラーで驚いた。   カラー画像も送れたのか? テ:じゃあ吉川先生、お願いします A:(吉)本当は寺薗さんでいいかと思うのですが……。   1枚では白黒です。   フィルタをかけて撮影した複数の画像を合成するとあのようなカラーになります。   (テ)あくまでフィルタをかけた画像の合成なので人間の目で見た場合と色合いが異なる点はご留意下さい 【後半しゅっぱーつ】 吉:  ※イトカワの名の由来。「ロケットの父」糸川博士とペンシルロケット。  「はやぶさ」打ち上げ後に発見者に「イトカワ」と名付けてもらいました。  (イトカワの軌道図を提示して)  あんまり小さいので地上からの観測ではほとんど様子がわかりません。  で、初期の模型も持ってきているんですが──    テ「色々持って来てますねぇ!?」(会場・笑)  ──ここにあるのが観測初期段階に作られたモデル。ジャガイモみたいです。  (初期モデルを机の上に)  「はやぶさ」のターゲットとなったことから地上から一生懸命「イトカワ」を観測しました。  やれるだけの地上観測の成果を反映して作られたのがこのモデルです。  (地上観測全成果反映モデルを机の上に。山川先生、全4種の方角を一致させようとこっそり奮闘)  これが実際に到着すると一気に理解度が変わります。  到着1週間前でようやく細長い形が見えてきましたが、 130km 辺りから「表面の様子がおかしい!」と言われ始めます。    テ「それは『ヤバイ!』という意味ですか?」  いえ、「クレーターがない!」と興奮し始めたんですね。  やがてイトカワの形状が何かに似てる、と言われ始めて、こうなります。  (「いとかわラッコ」図提示。会場・笑)    ※ ttp://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2005/11/post_fe2e.html  こうすると便利なんですよ。  「今日は頭を観測する」「今日はお尻を」というように誰でも場所がわかるようになりましたから。  それで忘年会で全員に紙粘土が配られ「イトカワを作れ」となりまして、優勝作品がこれです。  (かのイトカワ紙粘土モデルコンテスト優勝作品写真提示。会場爆笑)    ※ ttp://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2005/11/post_fe2e.html  酔っぱらいたちが何やってるんでしょうね(苦笑)。  ※イトカワの内輪向け地名と IAU 公認地名の説明。  (テラキンさんは「会津大も貢献した」とアピール)  ※例により「Muses Sea」が「Muses-C Regio」になった件の説明。  さて、私は「はやぶさ」について話す時はいつもアウトリーチのこともお話しするようにしています。  「はやぶさ」は今までにないほど多くの方に応援していただいています。   - 運用室の外の壁に貼られたメッセージ   - あすたむらんど徳島から届いた応援メッセージ   - 6歳の子供さんから届いたイラスト   - 東工大附属高校科学部から届いた「はやぶさ」折り紙    ※ 以上、 ttp://www.senkyo.co.jp/ists2008/pdf/2008-u-23.pdf  Fig.10, 15   - UMSF の X-Wing コラ    ※ ttp://www.unmannedspaceflight.com/index.php?showtopic=870&view=findpost&p=28250   「もう一機の探査機が?」の日本語キャプション付き。  それと、今日は寺薗さんがいらっしゃいますからやはりこれかと。  (HAYABUSA LIVE ブログより1回目タッチダウン、2回目タッチダウンのブログ更新卓写真提示。会場・笑)   ※ ttp://www.senkyo.co.jp/ists2008/pdf/2008-u-23.pdf  Fig.4  この時は36時間くらい起き続けていました。  そしてしばらく後になって大正さんに頂いたのがこれです。  (あの「2カートン」の写真。モザイクの類は一切なし。会場爆笑)  これ、1箱100本入りでしたっけ?  (※写真を見る限り、1カートン50本入りの模様)  どうも関係者の方がブログをご覧になっていたらしくて、2ヶ月後に広報課から  「世界中に宣伝してくれてありがとう」というお知らせが届いたとか。    テ「大正製薬さんの社内誌へ寄稿のご依頼まで頂いてしまった(笑)」  更にですね、「はやぶさ」ファンの方からこんな差し入れまで頂きました。  (リポDパロディラベルバージョンの写真)  このラベル、本当に良くできているのでちょっと拡大しますね。   ※ ttp://home.att.ne.jp/theta/tas/report/051202.htm  これ、関係者が作ったんじゃないんですよ、ファンの方なんです。  ここにある文章は全部パロディされています。  「大正製薬」は「川口製薬」──プロジェクトの一番偉い人の名が「川口」でして──  ここ、バーコードの番号まで衛星識別番号に書き換えられています。  実によく知っていらっしゃる方が作られたんですね。  こうして応援頂いている「はやぶさ」ですが、あちこち壊れてしまっています。  何とか頑張って地球に帰還したいと思っています。  現在は「はやぶさ2」という次のミッションを構想しています。  予算がなかなかつかずにいるのですが、ちょっとムービーをお見せしますね。  ※「はやぶさ2」ミッション構想動画を流しながら2機構成であること、   風化していない試料を得るのが目的であることなど解説 Q:小惑星には 50 m という大きさの物もあるのか? A:(吉)あります。 Q:キセノンとはどのような物質か? A:(山)うう……ん、説明が難しいのですが……「少ない電力で効率よく加速できる」物質です。 【休憩】  イトカワ模型4種に子供さん殺到。  後ろから頑張って覗き込もうとする大人たち。  意地になって撮影に挑戦するマニアたち。 【はやぶさクイズ(司会:テラキンさん)】 テ「全問正解の方には洩れなく何もありません」(会場・笑) ※問1、問2はメモを忘れたため割愛。スマン。 問3:小惑星の名前として本当にあるのはどれ?   1)ゴレンジャー  2)仮面ライダー  3)ガッチャマン   テ「お父さんたちが喜びそうな名前ばかりですね(笑)」   答:2(仮面ライダー)   吉「タコヤキというのもありますよね」   テ「早見優もありますよ」   吉「実は私の名前の小惑星もあります。     ヨシカワは既にあるのですが、マコトというのが私にちなんだ小惑星」   テ「ヨシカワと衝突して合体すれば丁度いい」(会場笑) 問4:「はやぶさ」が搭載していないのはどれ?   1)カメラ   2)磁力計   3)高度計   答:2(磁力計) 問5:「はやぶさ」が地球に加速してもらったことを何という?   1)スイングバイ  2)スタンドバイ  3)グッドバイ   テ「3番入れちゃダメでしょう!?」   答:1(スイングバイ) 問6:「はやぶさ」が地球に近づいたとき、本当にあった出来事は?   1)予想より速度がでてしまって地球にぶつかりそうになった   2)地上の望遠鏡で「はやぶさ」の写真が撮影された   3)「はやぶさ」が撮影した地球の写真が天気予報で使われた   答:3(地球画像が天気予報で使われた)   吉「当時『ひまわり5号』が大変な時期で広域画像がなかったんです。     『はやぶさ』が撮影した日本上空画像に台風が写っていたため森田さんの番組で使われました。     実は的川先生と森田さんとは交流がありまして」 問7:「はやぶさ」のサンプル採取のための腕の長さは?(ノーヒント)   1)500 mm   2)1,000 mm  3)1,500mm   答:2(1,000 mm)   テ「真ん中を選ぶ人が多いというのが、実に日本らしい(笑)」   山「短すぎると表面の岩で届かないかもしれない。長すぎると機内にしまえないというわけです」 問8:「はやぶさ」打ち上げからスイングバイまで何日?   1)376日   2)488日   3)551日   答:2(376日) ← Attention!   会場からブーイング。   テ「……え?え?何?」   吉・山「『376日』は『1』番!」 問9:「はやぶさ」が撮影した写真は全部で何枚くらい?   1)150枚   2)1,500枚  3)15,000枚   答:2(1,500枚) 問10:「はやぶさ」のサンプルカプセルの重さは?   1)16 kg  2)26 kg   3)36 kg   テ「客を甘やかさないのが科学者の悪い所。ノーヒントです。     意外に関係者も知らないことなので前のお2人もどうぞ。     間違えたらおしおきですからね」   ※山川先生はどうやら本当に「?」状態。吉川先生は1、山川先生は2を選ぶ   答:1(16 kg)   テ「えー、間違えた方の先生は後でゆっくり話しましょうね」 【「はやぶさ」映画上映】  「祈り」本編を吉川先生、テラキンさんの解説付で。  イトカワ表面温度は 70℃ 程度だろうと今は考えられているとのこと。  (以前は 100℃ くらいと推測されていた)  エンドロールでは会場をやや明るくし、そのまま閉会挨拶となる 【閉会挨拶】 山:このプロジェクトに関わって京都で話す機会を得たのは初めてです。   今日はありがとうございました 吉:引き続き皆様の応援をお願いします テ:「はやぶさ」はシナリオのないドラマ。   技術でなく皆さんの力が(「はやぶさ」を地球に)戻すと私たちは思っています。   皆さん、お力添えをお願いします。 【閉会後ぶら下がり】 吉:「はやぶさ2」では人間らしい生活ができるようにします(苦笑) (※08/13の自律停止で泣きを見られたか?)