「宇宙探査の始動 〜Inspire the future〜」 2009/03/14 於:パシフィコ横浜 ※メモからの書き起こしなので誤りを含む可能性あり、注意。 ※意見交換セッション以外については  本ファイルと同一ディレクトリに「20090314_1.txt」があります [ 第2部 宇宙探査、構想から実演へ Are you ready to go? ] 5)意見交換セッション ー探査活動の未来ー モデレータ: 山根 一眞(ノンフィクション作家) 登壇者: 室山 哲也(NHK解説委員)      川口 淳一郎(JAXA 月・惑星探査プログラムディレクタ)      加藤 學(JAXA 月・惑星探査プログラムグループ教授)      吉川 真(JAXA 月・惑星探査プログラムグループ准教授)      土井 隆雄(JAXA宇宙飛行士) 山根:今日のイベントは実に刺激的。    (登壇者たちを示して)こういう天才たちによって人類の限界を見せてもらえるわけです。    そして「ナマ土井」は中々見られるものではない。(会場笑)    「はやぶさ」タッチダウンの時は宇宙研に行きましたが、事態がなかなか進まない。    何日徹夜したんだろう?    「コマンドを送ったりオペレーションをしている方々の頭の中はどうなっているの?」と    思った。当時の広報だった的川氏が    「どうも『はやぶさ』はイトカワの上で横になって寝ているらしい。そうとしか考えられない」と    言ってきたんですが「なぜわかる!?」と。    だって3億 km 先の、500 m ぽっちの天体ですよ?彼らの頭脳はどうなってるんでしょう。    「はやぶさ」が試料を持ち帰れば 1,000 本以上の論文が書けるんだそうです。    当時、宇宙研からの帰りに運転していたら NHK ラジオからニュースが流れまして    慌てて IC レコーダで録音したものがあるのですが──室山さんいるから流してもいいよね?(笑)    (※「はやぶさ」のタッチダウンを報じるラジオニュースを流す)    こういうことは国を挙げて応援して頂きたい。    「はやぶさ2」が危ぶまれていますが、お金ですよ!今日の目的ってそれでしょ?(会場爆笑)    定額給付金が配布されたって焼肉食って終わりです。    国民一人あたり¥150 出せば(「はやぶさ2」が)実現できるんです。    焼肉食ってる場合じゃない。室山さん、NHKでやって下さいよ。    「かぐや」について「アポロが月に行ったのになんでまた月?」という人もいますが    全然違いますよ、すごい成果を挙げている。でも科学雑誌じゃないと伝えにくい成果。    こうしたことを次世代に伝えなければ途絶えてしまう。後継ミッションは必要です。    土井さん、彼は日本人初の宇宙遊泳(※発言ママ)をされたわけですから    彼自身が小惑星みたいなもんです(笑)。    その土井さんが本日はパワーポイントでプレゼンテーションして下さる。    ──では土井さん、お願いします。 土井: ・1)地球のすばらしさ──宇宙船地球号:有限な世界    ISS から地球を見ると1つの船だと、そして閉じた船である以上そこは限りある世界だと感じる。  2)スペースステーションのすごさ──人間はすばらしい力を持つ    ロシアのモジュールは無骨で厚い構造部材(ハッチの厚さ 10 cm)。    アメリカ側のクルーにロシアモジュールの感想を言ったら「向こうは潜水艦の中なんだよ」。    アメリカのモジュールは洗練されたデザインで薄い構造部材(ハッチの厚さ 5 mm)。    ロシアは船舶系、アメリカは航空系の進化を辿ったのだろう。    ロシアの輸送機(ソユーズ、プログレス)は「シンプルで高い信頼性」。    アメリカの輸送機(スペースシャトル)は「複雑で高い機能」。 ・提案1)日本版有人ロケットを作ろう    有人技術の有無は国際的な技術レベルの指標。    日本は海洋造船技術がある。これを航空分野に融合できればすばらしい。    ロシアともアメリカとも違う、日本的な技術を持とう。 ・提案2)日本版有人探査をしよう    川口教授のために特別にこの項目を持ってきました(笑)。    有人探査は新しい世界を拓くために意義がある。    日本は国土が狭いから宇宙、海は重要視すべきリソース。    宇宙と海は共通した部分があります。    エウロパには海がある、そこに「しんかい6500」を投入できたら。    逆に宇宙分野の技術を海洋探査に応用することもできると思います。 山根:こういう問題提起を宇宙飛行士にしてもらうのは最高!……というか「思うツボ」(笑)。    「日本的な宇宙技術」ってどのようなものでしょう?例えば「きぼう」は? 土井:「きぼう」はアメリカ型ですね。    日本的な、それぞれ得意なものを持ち寄れば……具体的には皆さんに考えてもらいたい。 山根:1990年代は ISS と言えば「国家、文化の垣根を払って1つに融合!世界は1つ!」    みたいな風潮がありましたが、今はそういう風には語られなくなりましたよね。    土井さん、文化的意義の面から見た ISS は? 土井:自分や星出さんがしたのは「建設ミッション」でした。    今度の若田さんの滞在で文化的なミッションもあるでしょう。 山根:映像だけ見ると ISS は狭くて息が詰まりそうな印象を受けましたが 土井:広いです。端から端を見通せないくらい広い。    仕事をしていると皆が別々のモジュールにいるから自分の周りに人影がないくらいですから    息苦しさはありません。 山根:文化ミッションの一環として「ISS でかくれんぼ」をしたら…… 土井:見つかりませんね(笑)。    例えば ISS の中で何か物をなくしたら見つからなくなってしまう。    空調に流されて消えてしまう、そういう恐ろしいところです。(会場笑) 山根:吉川さん、「はやぶさ」のカルチャーは「何型」でしょう? 吉川:「何型」?(苦笑まじりにしばらく考えて)「草の根型」。 山根:名も知られていない中小企業の協力とかもあったんでしょう? 吉川:はい、私がダイジェスト版でご紹介した「祈り」の最後には「はやぶさ」に関わった    人たちがクレジットされていますが、1,000 人以上が載っています。    延べ人数なので正確ではありませんが。 山根:商売にはなってないでしょ? 吉川:儲かっていないでしょう(苦笑)。 山根:でも夢を託して協力してくれる。 吉川:チャレンジは大切だと。 山根:「かぐや」はどうでしょう? 加藤:(NASDA、ISAS 合同ミッションという点で)JAXA 統合を先取りした点は画期的です。    打ち上げが延期したせいで JAXA 統合後になってしまいましたけど(苦笑)。    統合の先取りという点で良い面、悪い面、両方ありましたが良かったと思います。    関わっている科学者も多く、国民の関心も高い。   「何型」で言うなら「ワンコインのミッション」。    国民1人あたり¥500 で 10 年やれた。 山根:今日ここに集まった方々なら 50 万くらい出してくれそうだ(笑) 加藤:(笑)(成果という形で)国民にお返しをしたいですね。 山根:土井さん、「かぐや」の月の画像を見てどうでした?「次は月に行くぞ!」ってなる? 土井:やはり自分の目で見て、自分の足で立ちたいですね 山根:川口さん、「はやぶさ」があそこまで成果を出すと信じていました? 川口:……ああ、ええ、「信じる」というか、(成果の目処が立つだけの)裏付けはとっています。    決して自信過剰で言っているわけではありません。 山根:日本の宇宙探査の「成功」が新聞の1面を飾った。    それまでは「失敗」しか1面に出なかったのに。(会場笑)    そういう世間の反応は予想していましたか? 川口:タッチダウンの時は集まった取材陣で床が抜けるかと思いました。    励ましてもらったと思っています。 山根:吉川さんが「月の前に有人小惑星探査」と仰っていましたが、それに対する手応えは。 川口:有人も無人も、金銭的規模はともかくとして目指すものは同じです。    「知らないことを知りたい」。    無人、有人は「未踏と未開」の違いで使い分けるもの。    月も小天体も資源利用という面での価値があって──鉄やニッケルはありふれてますが(笑)──    レアメタルとかですね。そういう視点も必要でしょう。    技術が文化を生むという点もある。 山根:現在、南極の資源の取り合いが問題になり始めています。    「月メジャー」とかできて「月資源問題で株が暴落し……」なんてニュースが    流れる日がくるのでしょうか。資源に関するルールは新しい文化に必要ですね。 川口:国際協同という動きがあります。天体資源に関しても有効なやりかた──この「有効」には    「friendship」という意味も含みます──を模索していくことになるでしょう。 山根:国同士の諍いということで土井さん、ISS の中で喧嘩したことはありますか? 土井:喧嘩はありません。宇宙飛行士それぞれ個性はありますが長期間一緒に訓練しますし、    例えば命に関わる所は押し通すし、軽い問題なら譲歩する。    そういう、協調するための駆け引きを学んで行く必要はありました。 山根:例えばね、もし ISS の中で事件が起きたらどこの法がそれを裁くのかとか…… 土井:ISS 内の法所掌は決まっています。(現場モジュールの担当国の法所掌になる)    ただ通路などで担当国が曖昧な部分があったりして未整備な所はあります。 山根:私がこんなことを言うのもね、宇宙映画って必ず戦争じゃありませんか(笑)。 土井:映画世界の「宇宙」は既に「生き延びるのが当然の場所」レベルですから。    現実では「生き延びるので精一杯」で争う余裕がないのだと思います(笑) 山根:現在の ISS の高度は約 400 km。    今後、人間の到達距離を月や火星にのばして行く意味って何でしょうね室山さん? 室山:それを勉強しに来た面もあるのですが(笑)    「人類の共有財産」として使うという目が必要になるでしょうね。    今はお金を出した所の意見が通るわけですが、例えば国連管轄にするなどしてね。 山根:宇宙進出をテコとして、人類の望ましいあり方を模索する? 室山:「国益」と「地球益」のバランス感覚が必要になるかなと。    地上と同じことをやっていないで、その半歩先を。具体的にはまだ思いつかないけど。 山根:文化系で宇宙ってあまり聞きませんよね。技術分野に偏っている。    吉川さん、文化面でのリーダーシップをとった経緯は? 吉川:「一般人もお金を出せば宇宙に行ける」時代になれば状況は変わるだろうなと思います。    そのためには技術進歩が必要です。 山根:JTB だったかが宇宙プランを実際に出してるんですよね。……月軌道往復で 140 億円。(会場笑)    加藤さん、文化面についてはどうでしょう。 加藤:自分は理学者だから「文化」という意識はありませんでした。    ただ講演の際は「JAXA が月へ行く宇宙飛行士を募集するから、10 年後に応募して下さい」と    中学生に言ってます。 山根:有人月探査が 30 年後でしたっけ(※実際は「2030年目標」の誤り)。    もうちょっと早くなりませんか、私、90歳になっちゃってますよ。 加藤:それは皆思っているはずです。やはりお金……国力の問題でしょう。 山根:いくらあれば有人月探査はできます? 加藤:開発で1兆円。それだけの国力と、宇宙予算がいる。 山根:定額給付金が合計で2兆円……焼肉より「土井さんを月に」で使いたいなあ。    川口さん、(有人月探査について)何かあれば 川口:とにかく次がないと、技術は「ノコギリの歯」のようになって(成長→衰退して)しまう。    ノコギリの歯を重ねるように続けていかなければならないが1ミッション 10 年以上。    それでやっていけるかどうか。    技術、教育という投資は必要。宇宙分野に直接反映されなかったとしても、環境なり    エネルギーなりの分野の人材でもいいんです。 山根:ロシアや中国の宇宙分野に対する雰囲気はどうなんでしょう。 室山:軍事が関係するかどうかというのは大きい。    アメリカはぶっちぎり、欧州、インド、中国が追い上げていて、今日本は7位でしたっけ?    中国の宇宙開発は「国策」としてはっきりしている。向こうは国のトップが理系でしょう、    日本は(宇宙開発を推す)政治家がいない。文系が国のトップになっちゃってる。    いっそ土井さんを国のトップに……(会場笑) 山根:「土井新党」でも作っちゃいますか!(会場爆笑) Q:有人月探査を始める事で無人探査の予算がとられる懸念は? 川口:有人、無人は行く場所の違いによるのだから「両方の組み合わせでいく」は基本方針のはず。    まさか「未踏の地」にいきなり人間を送り込めるわけはないから無人探査が失われてはならない。 山根:コストダウンは可能でしょうか? 川口:それはその方向で考えて行かなければならない。 Q:有人、無人で話が進んで来たが地上系は? 吉川:いくら探査機を打ち上げても地上が運用できなければ意味がありません。    JAXA は地上系についても考えているはずです。